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the dead : beloved one製作の記録(記憶)


ゲームマーケット2017秋でthe dead : beloved oneという1人プレイ専用のゾンビサバイバルゲームを頒布しました。

このブログは、なぜ私がこのゲームを作ろうと思ったのか?どのようにして完成したのか?を記憶にある限り残しておこうと思い書き始めました。(もうだいぶ記憶が怪しいのですが)

かなり調子に乗って書いてますので不快に思われる方もいるかもしれないことを先に言っておきます。(長文です)

■既存のゾンビゲームへの不満

私はデジタル・アナログ問わずゾンビゲームが大好きでよく遊びます。

デジタルならZombiU(移植版はZombi)やState of Decay(日本未発売)、アナログならLastnight on Earth(初めて買ったボードゲームでした)といったゾンビゲームが好みです。

今回自分でゾンビゲームを作るにあたって(というかもう何年も作り続けているのですが完成したのは今回が初めてです)やりたかったことがありました。

それは『既存のゾンビゲームの(自分にとっての)不満点を一切排除する』ということでした。

デジタル・アナログ問わず既存のゾンビゲームにある要素で、今回the dead : beloved oneを作るにあたっては絶対に必要ないと思ったものが『爽快感』です。

『ゲームから爽快感を取り除く…何を言ってるんだこいつは?』とお思いの方も多いでしょう。

私が考えるにゲームというものは『何らかの楽しさを遊ぶ側に提供するもの』だと思っています。

システム上のジレンマだったり、アート全体からくる雰囲気だったり、シナリオだったり、操作すること自体だったり、いろいろありますが世の中のすべてのゲームデザイナーさんは(おそらくですが)『いかにして楽しさを提供するか』に日夜心を砕いていらっしゃるものだろうと思っています。

そして楽しさの一つとして『爽快感』というものがあると思います。

何か難しいチャレンジを達成する爽快感、アクションを成功させる爽快感、単純に操作すること自体から得られる爽快感。

形は様々ですが『爽快感』というのはそのゲームへの充実感・充足感を高めてくれるものでしょう。

特にゾンビゲームに限って言っても『爽快感』というものは絶対的に必要な要素だと思われます。

多数のゾンビに囲まれて絶体絶命のピンチにチェーンソーを使って脱出路を切り開く!なんていうのはわかりやすい例でしょう。

しかし、私が作りたかったゾンビゲームには爽快感は不要だと思ったのです。

私にとってゾンビゲームに必要な要素は…

・終末感(世界が緩やかに終わっていく感じ)

・絶望感、孤独感

・生きのびることのつらさ

・死への恐怖(自分もゾンビになるかもしれないという恐怖)

といったものでした。

こういった要素を盛り込んだゾンビゲームを作りたいと長いこと思っていたのです。

そして数多くのゾンビ映画を見て、関連書籍や小説を読んで自分なりに導き出した答えが『爽快感の排除』だったのです。

しかしこれは『ゲーム』を作る以上、かなりのマイナス要素であることはわかっていました。

つらいだけのゲームをやりたい人などそうはいません。

有名なデジタルゲームにダークソウル(シリーズ)というものがあります。

プレイヤーはファンタジー世界でひたすらモンスターを相手に戦い、ダンジョンを進み、強大なボスモンスターと対峙するのです。

シリーズ1作目のデモンズソウルが発売されたとき、その難易度の高さとストイックな世界観に『マゾゲー』や『死にゲー』といったコメントが数多く寄せられ、その結果大ヒットとなりました。

つまり、つらい難しいゲームであっても最終的に敵を討ち倒すというような『爽快感』があれば、遊ぶ側は満足を得られるのです。

ですがもしその『爽快感』が無かったらどうでしょう。

つらく、難易度の高い道のりを超える過程に『爽快感』が無かったら。

かなりの数のプレーヤーがそのゲームを遊ぶことをやめるでしょう。

ではどうやったらゲームとして成立するのか?

もしゲームとして成立しないとしても、どうやったらプレイ後に満足感、納得感を得られるのか?

そこからこのゲーム作りは始まりました。

■ゲームではなく体験を作る

これは後付けというか、テストプレイをしてくださったサワダシンヤさん(podcast 狭くて浅いやつら パーソナリティ)に指摘いただいてわかったことなのですが、私が作ったものは『ゲームではなくて体験である』ということでした。

サワダさんから、『このゲームのジャンルはワールドエンドエクスペリエンスだ』という言葉をいただき非常に納得がいったものです。

サワダさんいわく、『このゲームは面白くないw ゲーム的なカタルシスも爽快感もなくひたすら死ぬつらさだけがある。でも味わい深い。終末世界を生きるってこういうことなのかもしれない。』と。

ここから、終末世界を体験するゲーム→ワールドエンドエクスペリエンス(造語です)となったようです。

実際、私はこのthe dead : beloved oneを作っている最中、『自分だったらこの状況でどう判断するか?』を基準に全てのことを考えていました。

システム的にこうしたほうが面白い、矛盾が少ないとかではなく、自分はどうする?が大事だったのです。

そういった意味ではTRPG的なアプローチだったのかもしれません。(そう指摘されただけで、私自身TRPGはほとんど遊んだことがないので見当外れだったらすいません)

■シナリオ作りからスタート

ゲームではなく体験を作る、という方針のもとになったのが今回のゲームのバックグラウンドストーリーです。

以下マニュアルより抜粋

その男には家庭があった。愛する妻と息子、つつましくも幸せな生活。

だが息子の5歳の誕生日に世界は一変した。

人が人を喰い、それがまた人を喰う。

男と妻は息子を守れなかった。あの笑顔を守れなかったのだ。

妻は自ら命を絶とうとしたが男は二人で生き延びる道を選んだ。

息子のぶんも生きてやろうと。

無気力になった妻を支えながら、男は何日もさまよい続けた。

どこかに安全な場所があると信じて。

しかし妻の精神力と体力は限界だった。

昨晩、ついに妻はやつらの餌食となってしまったのだ。

それでも男は歩き続けた。安息の地を求めて。

そして妻も歩き始めた。愛する夫を求めて。

このシナリオがこのゲームのすべてと言ってもいいかもしれません。

全てはこのシナリオ世界を体験するためのシステムとなっています。(アート含め)

恥ずかしながら、このシナリオが出来上がった段階でゲームの80%くらいが完成した気になっていたのは事実です。

下手したらここで満足して制作をやめてしまっていたかもしれません。

ゾンビ以外のテーマだったらストーリーを作っただけで終わっていたでしょう。

ですが『自分の理想のゾンビゲーム(世界)を作る』という思いは私を動かし続けました。

制作の途中で敬愛するジョージ・A・ロメロ氏が亡くなってしまったことも影響をあたえたのかもしれません。

なんとしても完成させる。ただそれだけを考えていました。

・主人公は特殊能力など一切ない普通の男性。

・奥さんと子供をゾンビパンデミックで失った。

・しかも奥さんはゾンビ化し自分を追いかけてくる。

・軍のヘリが待つ救出地点があるらしい。

こういった要素をプレーヤーに体験してもらうにはどうしたらいいかをひとつずつ考えていきました。

■一人プレイ専用のゾンビゲーム

ストーリーを完成させた段階でこのゲームは一人プレイ専用となりました。

孤独感・絶望感を表現するにあたっては他の登場人物は不要だったのです。

ゾンビものにおいては生き残った者同士の人間ドラマも大事な要素ではありますが、このゲームには取り入れませんでした。

あくまでも『最愛の子と妻を失った父親が一人の人間としてどう生きるのか』にフォーカスしたかったからです。

そこにはヒーローも幸せなエンディングも何もなくて良かったのです。

ただプレーヤーにその男の人生を体験してほしかったのです。

■タイトルの決定

タイトルはかなり早い段階で、the dead : ○○○○という形にしようと決まりました。

このthe deadというのはもととなる映画作品があります。

『ゾンビ大陸アフリカン』というひどい邦題(ほめてますw)の映画の原題が『The Dead』なのです。

ゾンビものというと『〇〇オブザデッド』というパターンが有名ですが、今回そのスタイルは使いたくありませんでした。

尊敬するロメロ監督(ご冥福をお祈りします)の一連のゾンビ映画で有名になった『〇〇オブザデッド』ですが、あまりにも有名すぎました。

『〇〇オブザデッド』では一発でゾンビもののゲームだとわかってしまうのです。

ゾンビもののゲームであることがわかるのはいいのですが、前述したようにこのゲームには『爽快感』がありません。

私の印象としてゾンビゲームを好む方の多くは『爽快感のあるゾンビゲーム』を支持していると思っています。

ですからそういった方が、ゾンビゲームだということだけで飛びつくことは避けたかったのです。

それは決してそういった方をバカにしているわけでも何でもなく、趣味嗜好の合う方にお届けしたいという想いからです。

爽快感を求めている方にとってはこのゲームは苦痛でしかないでしょうし、それはお互いに避けたいことだろうと思ったのです。(このあたりのことは後の『ミスマッチングを防ぐための限定的な宣伝』の章でもお話しします)

そこで『the dead』というタイトルを思いつきました。

ゾンビ映画マニアならこの映画のことは知っていますし、2作目は日本でも『ザ・デッド:インディア(原題 THE DEAD2:INDIA)』としてソフトリリースされていますから、わかる人にはわかるだろうと思ったのです。

ただ『the dead』だけではパクリですし、ゲーム内容も表現できないので副題のようなものを付けようと考えました。

そこでいくつか案を出しました。

the dead : my love

the dead : til death do us part

the dead : loved one

the dead : beloved oneなどなど。

結果的にthe dead : loved oneとthe dead : beloved oneの間で悩みましたが、より情緒を感じるという理由でthe dead : beloved oneとしました。

非常に気に入っているタイトルなのですが問題が一つだけありました。

省略しにくいのですw

なんとか呼びやすくできないかと考えたのですが、あえてこのままにしました。

今ではこの長さも良かったのかと思っています。

■実際のシステム作り

ゲームとしてプレーヤーにシナリオを体験してもらうために、一応の目的を設定しました。

どこかにあるという軍のヘリが待つ救出地点(ゲーム内ではEVAQ=Evaquation Point)へたどり着く、というものです。

ここから、カードを並べてその上をプレーヤーとゾンビが進んでいくという基本的なシステムが出来ました。

そしてプレーヤーができるのは『移動・休憩・睡眠』という3つのアクション、ゾンビはずっと追いかけてくるという部分もほぼ制作当初のままです。

このころからゾンビとの戦闘は無し、というのも決まっていました。

なにしろゾンビは自分の奥さんしか出てきません。

ゾンビと闘いながら進むようなゲームにする気はありませんでした。

敵はゾンビではなく、自分の精神力と体力。

いかにして生き延びるのか?をメインにしたかったのです。

ゾンビに関して言うと、今回のゾンビは走りません。

私が走るゾンビにロマンを感じないというのもありますが、一番の理由は怖さの質が求めているものと違うからです。

ノロノロあるくゾンビから逃げるのは簡単なはずなのにいつの間にか追いつかれてしまう、これをやりたかったのです。

このゲームではゾンビは基本的に一歩ずつしか歩きません。(昼夜で変化があります)

プレーヤーは手札次第ですが1~5歩進めるので追いつかれるはずはないのです。

でもゾンビは疲れません、そして寝ません。

ひたすら追いかけてくるのです。

あなたが移動して距離を離すと精神力と体力が減ります。

精神力を回復するために休憩している間もゾンビは一歩ずつ近づいてきます。

そして体力を回復するために睡眠を取ろうものならあっという間にすぐそばに迫っているのです。

歩くゾンビは怖い、これが表現したかったのです。

●ゲーム制作初期

カードの山をひたすらめくってゴールを見つけてたどり着く、このころはほんとうに坊主めくり的な運ゲーでした。

場所カードに1~3の数字が書かれていてそれが手札と兼用という形。

手札を使用してアクションしたらカードを補充して、さらに場所カードも補充。

全く先の見えないゲームでしたが私一人で楽しんでいたのをおぼえています(苦笑)。

そしてこのころにはゲームの終了条件として、完成版にはないものが二つありました。

・奥さんを死なせてやる

・自殺する

というものです。

実は最初このゲームの主人公は『弾が一発だけ入ったハンドガンを持っている』という設定でした。

それを使って奥さんを死なせるか自殺するかも選べたのです。

完全なオマケ要素的に残しておくか、かなり最後のほうまで悩みましたが結局やめました。

もしもビデオゲーム的な実績システムが搭載できるなら、この二つの終了条件も残しておいたかもしれません。

●ゲーム制作中期

流石に運の要素が強く、戦略性のかけらもないことに自分自身飽き初めました。

そこで私の好きなボードゲーム『K2』の手札システムをいただくことにしました。

K2は手札がデッキとなっていてそのカードをやりくりする楽しさ(つらさ)があります。

それをthe dead : beloved oneにも採用してみました。

もともとは、手札も場所カードも同じものなのに役割が変わるというところにこだわりがあったのですが、スリルにかけるのでこの案は捨てました。

手札を9枚のデッキとし、3枚手に持ちそれを全て使い切らないと手札補充が出来ないようにしました。

多少ですが手札の管理という要素が入りゲームらしくなった気がします。(気がするだけです)

ですがこの『手札の導入』は私にとって思いがけない素晴らしい効果を生みました。

手札の管理という効果などどうでもよくなるほどです。

正直『オレ、天才だな』と思ったことを告白しておきますw

詳細は後の『アートにもシナリオを盛り込む』の章でお話しします。

さらに、もう一つシステムを追加しました。

それは昼夜の概念の導入です。(これもK2の天候システムの影響かもしれません)

ただひたすらゴールを目指すだけではゲームが平たんすぎるのが気になっていたのです。

そこで昼夜の概念を入れ、昼間はステータスの減りが激しく、夜間はゾンビの移動力が上がるとしたのです。

場所カードにDAY,NIGHTカードを加え、セッティング時に4つの山にしてそこに仕込むことで段階的に時間の経過を表現してみました。

結果的にゾンビものっぽい要素になったと思っています。

しかも夜になると昼間に減ったステータスの回復が難しくなり、あっという間にゾンビに追いつかれることになるのも良かったかなと。

夜間に突然ゾンビが接近しているというのはお約束ですから。

ちなみに夜間にゾンビの移動力が増えるのは決して走っているわけではありません。

街灯の無い夜道、足元を確認しながら歩くプレーヤーのスピードは昼間よりも落ちます。

ゾンビにはそんなこと関係ありませんからひたすら同じペースで追ってきます。

結果として相対的にゾンビのスピードが上がった、という解釈です。

ま、ここは私のこだわりでしかないので『夜はゾンビが走る!』と思ってもらってもかまいませんw

●ゲーム制作後期~最終的なバランス調整とテストプレイ

ゲームシステムへの大きな変更などは後半はほとんどありませんでした。

ただひたすら会社のお昼休みにプレイしては写真に収めtwitterにアップしていたものです。

通算のテストプレイ回数はおよそ180回を超えました。

ゲーム内容がほぼ固まった状態からでも70回ほどはプレイしたはずです。

とにかく回数こなして予測外の事態を洗い出し、それをマニュアルに追記していくという作業でした。

このあたりは一人プレイゲームのいいところですね。

テストプレイ要員が必要ないですから。

でもひたすら孤独でつらかったですw

そして最後の最後に点数システムを入れることにしました。

これは本当にオマケのつもりで入れたのですが、少しでも繰り返しプレイしてもらうきっかけになればという想いももちろんありました。

クリア(EVAQ到達)できなくても点数がもらるので『次はもう少しがんばってみよう』と思えるかなと。

結果的には得点システムはあって良かったと思っています。

Twitterで感想をあげてくださった方々の中には私の想像をはるかに超える高得点をたたき出している方がいて『ゲーマーすげぇ』と思ったものですw

■アートにもシナリオを盛り込む

今回のゲームでは自分でアート作業もやってしまおうと思っていました。

コスト削減というのもありますが『一人』にこだわったところもあります。

プレーヤーは一人、ゾンビも一体、作るのも遊ぶのも一人。

なんかいいなって思っただけです。

アートに関してはキャッチーさは不要だったので、ボールペンでメモ帳にさらさらと落書きしたものをPCに取り込んでほぼそのまま使っています。

ステータスボードなどもほぼフリーハンドの手書き。

でも全体的な統一感というか世界観のキープには気を使ったつもりです。

ゲームの舞台はアメリカ西部の乾燥地帯をイメージしたので、ネットで写真を探し建物の作りを勉強しました。家の玄関に網戸がはまっていて小さなポーチがあって、おじいちゃんが座ってそうな椅子があって…。

屋根裏部屋には小さな窓があって、傾いたポストがあって…とかですね。

意外にこういう普通のアメリカの家の資料というのが見つからず困っていたのですが、意外なところに最高の資料がありました。

オープンワールドのデジタルゲームです。

グランドセフトオート5,Ghost Recon:Wild Landsなどはかなり役に立ちました。

なにせ好きな角度からじっくり観察できますから。

そしてそれらの建物が一列につながることでプレーヤーの歩いていく道が出来上がりました。

プレーヤーコマとゾンビコマを置いて遊んだ時、『これだ!』と一人喜んだものです。

手札には下半分に建物のイラスト、上半分は空とそこに数字の表示があります。

この数字は『睡眠』アクションの時に回復できる体力のマスの数を表しています。

数字は0,2,3とあり0の場所では睡眠がとれない(危険な場所)ようになってます。

数字の背景の枠はアメリカの道路標識にしてみました。

ルート66みたいなやつですね。ま、雰囲気です。

そして最後まで悩んだのですが、場所カードの下部には数字の表示がありません。

遊んだ方はわかると思うのですが、プレーヤーコマをカードに乗せると数字が見づらくなります。

そのため最初はカードの右下のあたりに小さく数字を表示しようと思っていました。

ですが…かっこ悪いんですよ。普通に数字を書くと。

そこで●を数字と同じ数置いてみたり、アイコン的なものを書いてみたりしたのですがなんともしっくりきません。

私のデザイン力ではどうにもいいものが出来ないと思ったので、遊んでくださる方には申し訳ないのですが数字は上だけに表示しました。

プレイアビリティは下がるのですが自分の満足度を優先してしまいました。

ここはプロのデザイナーさんにお願いすべきだったかなぁと今でも後悔している部分です。

そしてプレーヤーコマとゾンビコマについて。

Twitterで言及して下さっている方が数人いらして感動しました。

そうなんです、右に進むゲームなのにプレーヤーコマは顔だけ左(進行方向と逆)を向いているんです。

右に向かって歩いているのにずっと後ろを気にしているんですね。

理由はもちろんお分かりいただけると思います。

the dead : beloved oneというゲームをうまく表現できたのではないか、と自分ではかなり満足している部分です。

さらに先ほど別の章でも触れた手札のデザインについて。

手札制を導入した結果、プレーヤーが何度も手札を見るという行為が生まれました。

そこで、ここにもゲームのテーマを盛り込めないかと考えて『家族写真のイメージ』をカードのデザインとしました。

まだゾンビパンデミックが起こる前、夫婦の間に男の子が生まれた直後でしょうか。

プレーヤーが赤子を高々と抱き上げ、それを再際の妻が見守る。そんな姿をシルエットで表現しました。(枠はインスタントカメラインスタントカメラのチェキのフィルムを模しています)

イラストの質が低いのは置いておいて、これは成功だったと思っています。

嫌でもプレーヤーに『幸せだったあのころを思いださせる』効果があったのではないかと。

もしあなたが未婚だったりお子さんがいなかったりしても、感情移入ができるのではないかと。

本当は子と妻がゾンビの犠牲になる部分もゲーム内に盛り込みたかったのですがうまくいかず断念したという経緯があっただけに、手札で昔を想起させることができたのは私にとって非常にうれしい事でした。

そしてこの手札のイラストについても触れている方がいて、その意味を理解して下さっていて本当にうれしくて泣きそうになりました。

こうしてthe dead : beloved oneという非常に私的な、個人の趣味を丸出しにした自分勝手なゲームが完成したのです。

最愛の家族を失った生きる目的も希望の無い一人の男がただ生き続けるというテーマをかなり再現できたのではないかと自分では思っています。

■ミスマッチングを防ぐための限定的な宣伝

ここまで変なゲームになった結果、普通の方にはテストプレイがお願いできないと思い、前述したサワダさんに連絡を取りました。

サワダさんのほうでもこのゲームのことが気になっていたようで快く受けていただけました。

二人はゾンビに対する好みや考え方がかなり近く、サワダさんなら理解してもらえるかもしれないという希望を胸にゲームのテストキットを郵送しました。

結果、サワダさんの第一声は『おもんない(面白くない)』でしたw

ただ『つまらない』ということではなく、やたら死ぬし孤独だしつらいということでした。

ただ何とも言えない魅力があるし、味わい深いとも付け加えてくれたのです。

もともと私はこのゲームを大量に作るつもりがなかったので宣伝もさほどする気はありませんでした。

このゲームを楽しめる人なんて世界中に自分一人しかいないと本気で思っていたくらいです。

でもせっかく作ったのでゲームマーケットで頒布してみたいなというのはありましたので、サワダさんと作戦会議をしたのです。

『ミスマッチングを防ぎ、欲しい人に確実に届くような宣伝を考える』という非常に難しい結論が出ました。

サワダさんがいうには『このゲームは大量に売って楽しんでくれる人を探すようなゲームじゃない。こういうゲームを求めている僅かな人に届けるべきだ。』ということでした。

基本的な方法としては私も同じようなことを考えていましたので、本当はゲームマーケット後に収録する予定だった『狭くて浅いやつら #315 the dead:beloved one』をゲームマーケット前に収録し公開。

ゲームの内容ではなく世界観のようなものについて語るポッドキャストになっています。

あとはゲームマーケットのブログに最小限の記事をアップ。

基本的には『買うな!』と言わんばかりの姿勢で宣伝コメントをtwitterに投下。

『ゾンビゲームに爽快感を求める人には合わない。買わないほうがいい。』

などひどい宣伝文句をつぶやきましたw

私は、『ゲームを売る・多くの人に手に取ってもらうということはすなわち楽しめない人をも作り出す』という考えを持っています。

とてもネガティブな考え方ですが今回のようなゲームの場合、この孤独感や絶望感を求めていない方に手に取ってもらうことは申し訳ないという気持ちがあったのです。

ゲームの存在が気づかれないというリスクを背負ってでも過剰に宣伝することは避けようと思ったのです。

それは私にできるたった一つのことでした。

ゲームマーケットが終わってから『こんなゲームがあったのか』『欲しかった』と言ってくださる方がいて非常にありがたく、また申し訳ない気持ちにもなりましたが今の私にできる売り方がこれだったということをご理解いただけたらと思います。

このブログ記事を書いている12/09現在、小量ですが追加生産をし、時期限定で通販対応させていただく予定です。

■感謝

このゲームは一人で作り始めたゲームですが、結果的に多くの方々の力添えによって完成しました。

マニュアルの校正はHal99さんとでじさん(デコクトデザイン)が、

テストプレイはサワダシンヤさん(狭くて浅いやつら)が、

英語版のマニュアルはサイゴウさんがそれぞれ協力していただけました。

そして、お亡くなりになったジョージ・A・ロメロ氏のご冥福をお祈りします。

あなたがいなければこのゲームは存在すらできませんでした。

最後に、このゲームを手に取って遊んでくださった皆さんありがとうございます。

この主人公の人生を、少しでもあなたの体験として感じ取ってもらえたらそんなにうれしいことはありません。


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